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「世界戦でカエル跳び、あっち向いてホイも…」“伝説のボクサー”輪島功一80歳が明かす奇想天外なアイデアの秘密「本当はやっちゃダメなんだよ」 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byKeiji Ishikawa

posted2024/04/06 17:04

「世界戦でカエル跳び、あっち向いてホイも…」“伝説のボクサー”輪島功一80歳が明かす奇想天外なアイデアの秘密「本当はやっちゃダメなんだよ」<Number Web> photograph by Keiji Ishikawa

身振り手振りを交えてインタビューに応じるボクシング界のレジェンド・輪島功一。80歳を迎えてもなお“輪島節”は健在だった

 相手を油断させる、あるいは心をかき乱す。気がつけば試合の流れは輪島さんに傾き、ボッシからタイトルを奪った。カエル跳びに加えてもう一つ、“あっち向いてホイ”も紹介したい。その名の通り、この技は試合中に突如あらぬほうを向いて、相手をかく乱させる戦法だ。

「オレが真剣にあっちを向いたら、相手もつられてあっちを向く。その間にパンチを決めるんだ。相手はパンチをもらったことにショックを受けるんじゃない。それよりも『なんだこいつは、汚い手を使ってコノヤロー!』となるんだよ。カッとして頭がパーになるの。そうやって駆け引きしてペースを引き寄せるんだよ」

「30センチのリーチ差」をどう埋めたのか?

 そもそも輪島さんはこの階級では背が低く、特にリーチは致命的とも言えるほど短かった。2度目の防衛戦で拳を交えたマット・ドノバンとはリーチ差が30センチ。そうした身体的ハンディも、人より頭を使い、工夫する原動力となった。

「まともじゃ勝てないわけよ。リーチが短いから相手に近づかないといけない。オレは自分のパンチが当たるところまで行くのに苦労するわけ。当然、相手はオレを近づけまいとする。オレは体と頭を振って避けながら前に出る。すごく怖いんだよ。パンチをもらうかもしれない。だから気持ちなんだ。『コノヤロー、打ってみろ!』っていう気持ちなんだよ。

 だからオレはいつも言うの。練習は根性、試合は勇気だって。勇気は根性より大事なんだ。勇気があって初めて根性で得たものを表に出せる。でもさ、リーチがあっても、パンチがあっても、それを表に出せない人は多いんだよ。気持ちが弱くてドギマギしちゃう。オレはそこを突くわけだ」

 輪島さんはボッシから奪ったタイトルを当時の連続防衛最多タイ記録となる6度防衛した。名声は上がり、大金も手にした。そして7度目の防衛戦に失敗。当時31歳。だれもが引退すると思った。ところがこの敗北が、新たな輪島伝説の始まりとなったのである。

<続く>

#2に続く
「オレは死なないから絶対にタオルは入れるな」“炎の男”輪島功一の闘志はなぜ衰えなかったのか? 執念の世界王座奪還で日本中を熱狂させた日

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