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カープ栗林良吏が完全復活で「常にゼロを目指す」昨季の不調を乗り越えて、守護神が今季1失点の好投を続ける秘訣

posted2024/05/09 11:02

 
カープ栗林良吏が完全復活で「常にゼロを目指す」昨季の不調を乗り越えて、守護神が今季1失点の好投を続ける秘訣<Number Web> photograph by JIJI PRESS

WBCでの負傷以来、本来の投球ができなかった昨季と比べ、今季は見違えるような投球を続けている栗林

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前原淳

前原淳Jun Maehara

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 強力な矛ではなく、強固な盾を擁するチームが勝る──。

 ここまでのセ・リーグの戦いを見ると、守備力を備えたチームがペナントレースをリードしている。

 得失点差では阪神とヤクルトの2球団が+16でトップだが、リーグ順位は対照的だ(データはすべて5月7日時点)。阪神が首位に立つ一方で、ヤクルトはその阪神に3.5ゲーム差をつけられての最下位。チーム打率.248、リーグ1位となる得点数130の攻撃陣を擁しながらも、チーム防御率(3.57)ではリーグ最下位のヤクルトは苦戦している。その一方、チーム打率.232はリーグ4位の阪神が、リーグ1位の防御率2.06で首位を走っている。

 ここまで5位と苦戦している広島も強固な盾を擁している。すでに6度の無得点試合を記録するなど得点力不足が響いているとはいえ、チーム防御率2.43はリーグ3位。先発、救援防御率ともに2点台以下をマークするのは、首位阪神、2位巨人と広島の3球団のみだ。1試合平均の得点数を見ても、巨人は2.47と広島の2.69よりも低いだけに、広島にも浮上の可能性は十分ある。

 薄氷を踏むような戦いが続く中で、守護神・栗林良吏の存在感が頼もしい。チームの12勝中9試合に関与し、3分けにも貢献した。開幕から登板15試合で失点は1試合のみ。防御率0.64の滑り出しは、救援失敗1度で新人王を獲得した1年目の2021年にも引けを取らない。

不安だらけの開幕前

 調整段階では、これほどの好スタートは想像できなかった。記者はシーズンのキーマンのひとりと見ていたが、不安材料が多いと感じていた。マイナス思考の栗林自身、不安を感じていたに違いない。

 WBCで負傷離脱して、シーズン序盤から苦しんだ昨季の悔しさもあっただろう。キャンプ初日からブルペン入りし、その後もコンスタントにブルペン入りしたものの、球速は140キロ台前半にとどまった。日を重ねて、打者を相手にしても不安は拭えなかった。空振りだけでなく、高めの直球でファウルを取れない場面も見られた。

「なかなかイメージ通りに行かない。それが不安につながった。結果はゼロでしたけど、内容のいいゼロではなかった。オープン戦はフォークが良かったので、なんとか真っすぐを上げて行ければ」

 シーズン開幕前にはそんな言葉を漏らしたが、キャンプから調整を一任されたこともあり、徐々に感覚を取り戻して行った。そして、まだ不安が拭えぬ3月10日、中日とのオープン戦後に新井貴浩監督は今季の抑え起用を明言した。

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