フルトンやタパレスはナーバスになっていたが…

　ここ数戦、井上の対戦相手は日本のメディアに対して必要以上にガードが固く、中身のある発言が少なかった。それだけに、ネリは自分の言葉でしっかり受け答えをしているという印象を与えた。言い方を変えれば、2戦前のスティーブン・フルトンや、前戦のマーロン・タパレスと比べてネリは図太い。いまにして思えば、フルトンやタパレスは井上との対戦を前にして、少なからずナーバスになっていたとあらためて気づく。

　ネリは井上が優勝したバンタム級トーナメント戦「ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ（WBSS）」に出場したかったと明かし、「4年前から井上と戦いたかった。長い間待った」とも話した。

　最後に意気込みを問われると、次のように締めた。

「とても厳しい試合になると思う。それは2人にとってだ。私だけでなく、井上にとっても厳しい試合になる。どちらにも勝つ可能性がある。私はメヒカーノ（メキシコ人）だ。すべてをリングの上で出し、リングの上で死ぬ覚悟だ」

©Takuya Sugiyama

ネリは本気で“モンスター”に勝とうとしている

　インタビューが終わると、ネリはシャドーボクシングとミット打ちを1ラウンドずつ披露した。ワイルドなパンチは腕がよくしなり、フルトンやタパレスにはなかった迫力が伝わってくる。短い練習を見届けた井上真吾トレーナーを記者が囲んだ。

「ワイルドな打ち方は想定内。パワフルとは感じましたけど、キレとかは感じなかった。弱点を見つけた？　誰でも言うじゃないですか。結局いままでの選手も（そう言って）ナオに何もできなかった。そこは気にならないですよ」

　ネリの態度についても「リスペクトしながら自分の気持ちを伝えていたんじゃないですかね」と意に介さないあたり、さすが場数を踏んでいる真吾トレーナーである。

注意深くネリの様子を観察する大橋秀行会長と井上真吾トレーナー　©Takuya Sugiyama

　心配されたウエートは、23日時点で127ポンド（約57.6キロ）、リミットまではあと2.3キロというから問題なさそうだ。ドーピング検査に関する質問が出ると、待ってましたとばかりに「3回やってすべて陰性。最後は10日前だ」と胸を張った。

　“前哨戦”とも言える公開練習はこうして大きなトラブルもなく終了した。ネリから伝わってきたのは、自分が井上と同レベルの選手であると考えていること、そして当たり前といえば当たり前なのだが、本気で“モンスター”に勝とうとしていることだ。

　はたして悪童はリングの上でも報道陣の前で見せたようなふてぶてしさを発揮できるのだろうか。ネリが「パウンド・フォー・パウンドのナンバーワンを決めるような試合」と表現した一戦は間もなくゴングが鳴る。