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「死ぬ思いで練習してきた」中谷潤人の強烈な一撃が“ドネアに勝った王者”のアゴに炸裂…苦戦説を一蹴する「圧巻のTKO」はこうして生まれた 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2024/02/25 17:00

「死ぬ思いで練習してきた」中谷潤人の強烈な一撃が“ドネアに勝った王者”のアゴに炸裂…苦戦説を一蹴する「圧巻のTKO」はこうして生まれた<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

中谷潤人はノニト・ドネアに勝利したWBC王者アレハンドロ・サンティアゴを圧倒。バンタム級初戦で3階級制覇を成し遂げた

 また、減量苦に見舞われた昨年9月の試合内容が、中谷にしてはいま一つ精彩を欠いた記憶も予想に影を落としていた。フライ級からスーパーフライ級に上げて1年余という短期間での再度の階級アップも、必ずしもプラスばかりではないと考えられた。「中谷不安説」にはそれなりの説得力があったのである。

「何もさせない展開」から圧巻のフィニッシュ

 中谷は本当に苦しむのだろうか。あるいはサンティアゴの術中にはまってプロ初黒星を喫するのだろうか。国技館に微妙な空気が漂う中、ジミー・レノンJrのコールで試合の火ぶたが切られた。

 中谷はいつもより腰を落とし、スタンスを広げた低い構えでスタートを切った。「ガンガンくる相手なので上体が立ってしまうと(もらったときに)効いてしまう。そこは集中して対応した」。中谷は右のリードをうまく使いながら、ポジションをサイドにずらし、サンティアゴが踏み込んできたらバックステップで対処。身長差とスピード差をいかし、距離をキープするボクシングを展開した。

 2回終了間際にサンティアゴの左フックを浴びたものの、3回には早くも左ストレートのタイミングを合わせて優位に立つ。反応がよく、右のリードと左カウンター、左から右につなぐ“ツーワン”も冴える。前に出たいサンティアゴは手を出せず、踏み込めず、まったくと言っていいほど何もできない。

 そして6回、試合を支配した中谷に対し、セコンドから次なる指示が下された。上体をやや起こしたアップライトの姿勢に変え、テンポを上げてワンツーで攻めていくという作戦だ。これがまんまとはまったのだから、中谷陣営は思わず拳を握りしめたに違いない。

 中谷はプラン通りワンツーを連続で打ち込むと、強烈な一撃がサンティアゴのアゴに炸裂、チャンピオンはロープ際にダウンだ。中谷は立ち上がった王者に畳みかけ、最後は左からシャープな右フックを打ち抜いてフィニッシュ。圧巻ともいえるTKO勝利を収めた3階級王者の言葉には、自信がみなぎっていた。

【次ページ】 適正階級で全盛期に突入した中谷潤人

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