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ドネアを倒した世界王者を衝撃KO、中谷潤人とは何者か? 地元の師匠が34歳で急逝、中卒→米ボクシング留学…名伯楽は「将来はスーパーフェザー級」 

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前田衷

前田衷Makoto Maeda

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posted2024/02/25 11:04

ドネアを倒した世界王者を衝撃KO、中谷潤人とは何者か? 地元の師匠が34歳で急逝、中卒→米ボクシング留学…名伯楽は「将来はスーパーフェザー級」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

タフと見られていた王者アレハンドロ・サンティアゴを6回KOで下した中谷。階級の壁を難なくクリアしてみせた「ネクストモンスター」とは何者なのか

ボクシング留学、両親が費用を負担

 普通なら、ボクシング部のある高校に進学しアマチュアのリングに立つところだが、中谷は別のコースを歩んだ。高校には進まず、本場アメリカに単身渡って「ボクシング留学」する道を選んだのだ。

 留学の諸費用を負担して送り出してくれたのが両親だった。ボクシングを始めて以来、家族総出でサポートし、潤人のために自宅内に練習スペースを作ってくれた。世界挑戦が近づくと一家で三重からジム近くに移住してまでバックアップをしてくれた。「感謝しきれないほど(自分に)注いでもらっている」と今も中谷は家族への恩を忘れていない。

名伯楽との出会い

 渡米した中谷は、日系人の家にホームステイしながらジムに通った。就労ビザは取得できないから、3カ月ごとに一時帰国し、再渡米する。これを1年以上も繰り返した。畑山隆則、伊藤雅雪もその教えを請うたロスのベテラン指導者、ルディ・エルナンデスに教えてもらうようになったのは初めての渡米から間もない頃。ルディの片腕でもある日本人トレーナー岡部大介が、いざという時にはルディとの通訳もこなしてくれた。たまには日本食が恋しいだろうと、岡部から自宅に呼ばれてご馳走になることが何度もあった。

 ルディの父の家にも泊めてもらい、家族の一員のように迎えられた。「チーム・ルディ」の話になると中谷は何度も「皆さんから可愛がってもらっています」と口にする。真面目で、目標に向かって一途に努力する中谷は、誰もが応援したくなる。そんな“愛されキャラ”なのだろう。

「才能があるのはひと目で分かった」

 中学を終えたばかりの当時の中谷は、ルディの目にどう映っていたのか。「ずいぶん痩せた子供だな」と思ったというが、それだけではない。「ボクシングの才能があるのはひと目で分かった。規律正しく、決意が固そうだった。私のアドバイスをいつもすごい集中力で実行し、一度も文句を言わなかった」。どうやら最初から中谷のいまを想定していたようである。

 畑山や伊藤と異なり、中谷に関してはルディが自らの手で育て、日本に送り込むかたちになった。中谷のような日本ではほぼ無名だった「逆輸入ボクサー」が成功するのは珍しい。

 プロになってからは日本が拠点になったが、その後もルディとの師弟関係は続き、試合前にロスでスパーリングを積んで調整するのが決まり事のようになった。ロスではダニエル・ローマンやカルロス・クアドラスといった世界チャンピオン経験者ともスパーを積んできた。「いろいろなタイプの選手とスパーして、ボクシングの幅を広げてもらった。どんな相手にも対応できるように引き出しをたくさん作ってもらいました」と中谷は振り返る。

【次ページ】 ユーリ阿久井政悟との対戦

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