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優勝を逃して泣いた日…松山英樹が3年半前に中嶋常幸に語っていた「メジャーへの夢」〈悲願のマスターズ制覇〉

posted2021/04/13 11:02

 
優勝を逃して泣いた日…松山英樹が3年半前に中嶋常幸に語っていた「メジャーへの夢」〈悲願のマスターズ制覇〉<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

松山英樹×中嶋常幸によるスペシャル対談が実現した

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鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

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Takuya Sugiyama

松山英樹が日本男子初の海外メジャー優勝、アジア人初のマスターズ制覇を成し遂げた。2017年には同大会に並ぶ海外メジャー大会、全米オープンで2位にまで迫っていたこともあり、まさに悲願の初制覇となった。この偉業を称え、海外メジャー大会優勝を惜しくも逃した2017年を振り返った記事を特別に公開する。

日本人初のメジャー制覇に最も近づいたあの日、優勝を逃した松山は涙した。あの涙の理由は何だったのか。今や限りなく現実的となったメジャー初優勝への鍵は何か。世界最高峰の景色を知る中嶋常幸と語り尽くした。
初出:「Sports Graphic Number」2017年12月20日発売号〈松山英樹×中嶋常幸「メジャーを勝つために」〉

「悔しさしか残っていなくて……」

――'17年の4大メジャー大会、松山さんはほぼ全てで優勝の可能性があったと思いますが、その中でも特に印象に残っている大会、シーンはありますか。

松山 自分としては全く何も残っていないんです。悔しさしか残っていなくて……。

中嶋 僕も見ている側として、英樹のこの1年というのは、ひと言では表せないな。絶不調で迎えたマスターズも最後は上位に食い込んだし、全米オープンでは(ブルックス・)ケプカが流れを掴んで勝ったけど、青木(功)さんに並ぶ2位タイ(日本人歴代最高)だったし、全英オープンも最終日を5位タイで迎えていい戦いをした。そして全米プロでは最終日のバックナインで首位にいた。残念ながら届かなかったけど、こうやって挙げていけばきりがない。たくさんのいいシーンを見せてくれたね。

 青木さんとジャック・ニクラウスのバルタスロールの死闘(1980年全米オープン)もそうだし、僕の場合は1987年の全米オープン最終日。首位に立った直後に木に当たってロストになったショットとか、メジャー優勝に迫った場面はそれぞれにある。でもシーズンを通して、そういったシーンをこれだけ多く作った選手は今までいなかった。

 ただその中で1つ、僕が見ていて、自分がその立場だったら……と胸が熱くなったのは、全米プロの最終日だね。特に気になったのは、最初の3ホールなんだ。1番でナイスショット、ナイスセカンド、ピンの右横1mくらいにつけて、そのパットが右にフッと外れた。誰もがバーディーだと思ったから「えっ!」となってね。その後3番ホールではピンフラッグにボールが当たって、跳ね返っちゃった。当たらなければ、もっと近い位置だった……。この2つが悔しかった。ピンフラッグに当たった時、どう思っていたの?

痛恨のミスに「やっぱり自分を許せない気持ちが」

松山 完璧なショットだったので、これ入らんかなと思ったんです。それが跳ね返ったから「あちゃあ……」とは思ったんですけど、まだ(首位と)差がそんなに開いていなかったんで、チャンスあるだろうなと思って。あそこは切り替えていけました。

 ただ、やっぱり痛かったのは(9番で単独トップに立った後)11番のセカンドショットですね。10番で(同組の)ジャスティン(・トーマス)が一度はカップの縁で止まったボールが(12秒遅れで)転がって入るという形でバーディーをとって、ギャラリーの雰囲気を持って行ったようなところがあったんです。それで11番のティーショットは2人とも完璧に打って、僕も本当になかなかないようないいショットが打てたんで「これはいける」という気持ちになったんですが、そこでなんてことのないセカンドを、イージーミス(グリーン右に外す)してしまったんで……。ウェッジで打ってあのミスをしたというのが、自分の中で許せなくて……。あそこをパーで切り抜けていれば、もう少しすんなり行けたのかもしれないですけど、ボギーにしてしまったことで自分の中にものすごいダメージがあったんです。その後、切り替えようとはしたんですけど、やっぱり自分を許せない気持ちが残っていて、12番、13番はボギーになっても仕方ないような精神状態で、実際にボギーを打ってしまったんです。

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