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総合格闘家と銀行頭取による異色の対談が実現。目標、挫折、プレッシャー…をテーマに彼らは何を語り合ったのか? 

text by

二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

PROFILE

photograph byTakuya Sugiyama

posted2024/04/19 11:00

総合格闘家と銀行頭取による異色の対談が実現。目標、挫折、プレッシャー…をテーマに彼らは何を語り合ったのか?<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

左から総合格闘家・井上直樹選手、横浜銀行・片岡達也頭取

僕の場合、嫌なことは寝たら大体忘れます(笑)

片岡 試合に負けた経験などこれまでにも挫折はあったとは思います。どのようにして乗り越えてきたのでしょうか?

井上 試合に負けるとやはり2、3日はその試合のことを考えたり、振り返ったりします。ただ過去を活かして次に繋げていかなければならないので、振り返りからは次どうしていこうかって、頭を切り替えます。負けてしまっても、練習してきたことはしっかり自分の身になっていますから。それに僕の場合、嫌なことは寝たら大体忘れます(笑)。

片岡 ビジネスでもPDCAサイクルという言葉があるように、振り返りって大事なんですよね。思いどおりにならないことってやっぱり多いじゃないですか。その原因について考えていくことが次へと繋がりますよね。うまくいかないと決めつけて諦めてしまったら、そこで終わりなので。

6000人のトップは、腹を括ってプレッシャーと向き合う

井上 頭取にも挫折はあったのでしょうか?

片岡 もちろんです。かなり前の話になりますが、何日か家に帰らないで頑張ったプロジェクトがうまくいかなかったことがありました。自分の努力が足りなかったことも当然ですが、周囲の巻き込み方が欠けていたのかなっていう反省も残りました。でもそれが新たな気づきになって次に繋がっていくというふうにも感じましたね。

井上 僕も挫折はたくさんあります。ただ、何をするにしても覚悟は必要かなって思いますね。

片岡 覚悟、いい言葉だと思いますね。覚悟というのはつまりは本気になれるかどうかなんでしょうね。井上選手はそれだけ本気で総合格闘技に向き合ってきたということ。

井上 試合の前はプレッシャーも感じます。たくさんの人が観ている前で試合をして、もし負けたら「弱い」と思われるし、評価も下がります。でも、練習でやってきたことがほぼすべてですし、自分を信じればいい。それに一緒に練習してきたコーチやジムの仲間たちの言葉によって、プレッシャーに負けず、気持ちがブレることなく安定させてもらっています。

片岡 プレッシャーという点で言うと、この立場になるまでは自分へのプレッシャーが強かったんです。でも今はグループで6000人近い従業員がいて、その家族の方々もいます。経営者として責任を持ちつつ、業績も上げていかなければなりません。この2つのプレッシャーをもの凄く感じています。でも井上選手が先ほどおっしゃったように覚悟を持つことで、すなわち何かあれば自分が責任を取るしかないって腹を括ることで、プレッシャーを乗り越えています。

井上 仕事を辞めたいと思ったこともありますか?

片岡 正直、若いころはありました。失敗して、そう思うくらい落ち込んだこともありますよ。でも古い考えかもしれませんが、一度始めたことなんだからもう少し頑張ってみようという思いはずっと私のなかにありました。井上選手は、小さいころに何度も辞めたいと思っていたそうですね。

井上 練習が厳しくて、逃げ出したくなったときはいくらでもあります(笑)。両親がそうさせなかったこともそうですが、コーチがちょっと怖かったんですよね。でも僕の場合、行きたくないんだけど、結果的には行くんですよ。つらいことから逃げ出さなかったことが今に活きていると凄く感じます。

片岡 “プレッシャーや緊張は楽しむもの”と言うアスリートもいます。私はまったく楽しめないんですけど、井上選手はどうですか?

井上 何か不安要素があるから緊張すると思うんです。打撃の強い対戦相手に対して寝技を中心にいこうと練習してきても、本当にそれが通用するかどうかは試合で肌を合わせないと分からない。その部分で緊張はありつつも、練習を続けてきた自信はあるわけなので、気持ちをそっちのほうに持っていきます。ただ、僕のなかでは緊張自体を楽しむっていう感覚まではありませんね。

片岡 緊張をほぐすのはあっても、なくすとなると難しい。緊張して当然みたいに、私も受け止めてはいるつもりです。

井上 プレッシャーや緊張に負けないのは、コーチやジムの仲間の存在もやっぱり大きいとは思います。コーチは計量の日から試合当日まで、仕事を休んで一緒についてきてくれますから。

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